2月です。

 中東では、戦争でたくさんの人が命を落としているというのに、悪魔の祭典「バレンタインデー」が今年もやってきます。血に飢えた女たちがチョコレートという黒い汚物で男たちをダメにする、アノ恒例行事です。「彼女がほしいよの会(会長:泰平 楽)」では、この期間中、会の名称を「黒い2月の会」に改め、会員減少を阻止するため「バレンタインデー撲滅運動」を展開しています。「チョコレートは悪魔によって血塗られた菓子である」とフセイン大統領も言っています(うそだよ~ん)。かくゆう私も、来月で31歳です。

 毎年、会員の中から裏切り行為が絶えません。当初は20人以上いた会員も、蜘蛛の巣にかかる蝶のように結婚してしまい、現在の会員は3人。「ああっ、私も裏切り者の蝶になりたい」という心のスキが身を亡ぼすのです。「孫の顔が見たい」や「変人と思われるよ」という親の意見のプレッシャーを背に受けながら過ごす日々、別に、好きでやっているわけじゃない……と。

 さて閑話休題。先月号で紹介した剛浦という人物について説明します。異常とも思える明るい性格で、夜、布団に入って、今日あった面白いことを一つひとつ思い出し、しばらく暗闇の中で笑い転げてから眠りにつくというこの男。この男のせいで、私は何度、辛い思いをしたことか……。

 あれは17歳の春のできごとでした。私は放課後、剛浦と2人で馬鹿話をしながら商店街を歩いていました。と、突然、彼はレコード店内の女子高校生を指さし「あーっ、万引きだ」と叫びました。指をさされたのは複数のスケバン風の女の子。彼女たちの視線は、僕らにロックオン。「あっ、ヤバい」と思ったときはすでに遅く、剛浦はスタコラサッサと自分だけ逃げていきます。私はもちろん、彼女たちに囲まれ、毒つかれ、小突かれ、謝ります。

 その間、剛浦は少し離れた電柱の陰から顔を半分出し、おびえた表情で事件の成り行きをうかがっています。女の子たちの怒りが鎮まり、立ち去り、自分の身の安全を確認した剛浦は恐る恐る近づき「あいつら、本当に万引きしてたんだぜェ」という。それなら逃げずに闘えという私に「でも、あいつらきっとカミソリを持ってるぞ」とわけのわからん言い訳。その夜、剛浦は女の子に囲まれ、困り果てた表情で右往左往する私を思い出し、布団の中で笑い転げたそうです…。

 こいつのエピソードを毎月一つずつ載せると、8年分は間違いなくあります。ちなみにこの男、ダウンタウンの松本氏に風貌が似ており、現在、炭鉱町の魚市場に勤めています。「炭鉱」「魚市場」といえば男臭い、任侠道の雰囲気が残る職場です。ある夏の昼下がり、仕事中の職場での出来事。「暑い、暑い、仕事なんてやっとれん」彼の上司が叫びます。「ビール、ビールを注文しろ」事務所の近くに喫茶店があり、ここ数日は仕事中にビールを注文しています。「麒麟だ麒麟、10本持ってきて。グラスは8個やきー」。

 まもなく若いウェイトレスがビールを持ってきます。「ここに置いときます」「なん?こっちに持って来んね」。上司の机は事務所の一番奥にあります。昨日も、一昨日も彼女はこの5~6メートルの道のりを黄色い声を上げながら歩いてきたのです。「サービスたい」「キャー」「よか尻タイ」「キャー」「ほれっ」「キャー」。上司は彼女にお酌をしてもらい「じゃ、また明日」と言ってチップを渡します。帰りも「キャー、キャー」と賑やかです。

(平成3年2月(中)に続く)

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