恋愛はゲームだ。ゲームには勝たなきゃ

この域に達することができる人は、うらやましい

 お盆の間は、お盆の間で、早々に初盆参りを済ませ、休養を取ろうと思ったところ……、午後6時30分、1件目の初盆のお宅に伺ったところ、いつもお世話になっている先輩が来ていました。「よおっ、泰平ちゃん、久しぶり」出された麦酒を飲んで、少し顔が赤い。この先輩、九州では一目置かれるQ大を卒業し、脱サラし、自営業を始めたばかりという、何かと話好きな、頭の良い、男前である。

 「あーっ、どうもお久しぶりです」「まあ、泰平ちゃん、あんたもビールば飲みんしゃい」「い、いや、車で来てますから…」「家は近くやろうが、歩いて帰んしゃい(帰りなさい)」「はあ、でも次がありますから……」「あんた、出されたビールは飲まんと失礼ばい。ねえっ」初盆の家の人、みんなうなづく。しかたがない、1杯だけ飲んだら帰ろう。「で、泰平ちゃん、あんた年はいくつかいな?」「31歳です」「もーそろそろ結婚せな(しなくちゃ)、いかんね」「はははっ」「はははっ、じゃないよ。誰か恋人でもおるっちゃろ(いるんだろ)?」「いたらいいんですけどね…」「あんた、まさか恋愛結婚したかやら(したいなど)、馬鹿なことを思うとるっちゃなかろうね(思っているんじゃないだろうね」「はははっ、別にどっちでもいいです」「どっちでもよかろーばってん(どっちでもよいかもしれないけど)ビールば飲みんしゃい」2杯目のビールになってしまいました。

 「恋愛結婚はやめたほうがよかよ」「ほーっ、どうしてですか?」ちなみにこの人、学生時代はモテモテで、車の助手席にはいつも違う女の人が乗っており、100人以上と付き合っていたのではないかと噂される、恋愛のプロです。「う~ん、オレは最初から、結婚はお見合いにしようというビジョンを立てていた」「ほほう」「ほほうは、いいからビールばの飲みんしゃい」3杯目のビールになってしまった。これを飲んだら、今度こそ帰ろう。

 「いろいろ見てるけど、恋愛結婚は後で苦労するよ。ねえっ、ヒデちゃん(初盆の家の人)」とヒデさんが「おー、おー、お前たちゃあ来とったとか(来ていたのか)、ビールば飲んで行けや」「いや、僕はこれで…」立ち上がった。「泰平!話の途中ばい、飲みない(飲みなさい)」4杯目のビールになり、完全に帰るきっかけを失った。

 「恋愛というのはゲームだ。心の駆け引きみたいなものだ」「へえ」「恋愛の場合、お互いをよく理解しているようだけど、アバタもエクボで相手の欠点が見えなくなっているんだ」「へーえ」「その上、結婚した途端、お互いが最後の仮面を外すことになるから、よほど注意をしないと、取り返しがつかなくなるケースがあるんだ」「ふむふむ」「その点、お見合いはお互いが冷静に相手を見れるから、失敗するケースが少ないんだ」もう、何杯ビールを飲んだかわからない。「そんなもんですかね?」「そんなものだ。俺なんか自分で言うのも何だけど恋愛ゲームの達人だ。色恋のプロだ」「ふむふむ」この頃になると、手酌でビールを飲んでいる。

 お参りに来る人も少なくなり「そろそろ…(帰るきっかけをつかもうとしている)」と立ち上がる。と、突然、どっかの爺さんがべろべろに酔って、部屋になだれ込んで来た。「よーっ、若い者ばかり集まって、何ばしようとね?」ついに焼酎が出てきてしまった。「そろそろ…」「何ば言いようとやー(何を言っているんだ)飲めェ、今日は初盆たい」意味不明のことを言いながら、その爺さん、フラフラと別室へ…。「ところで…」話の続きが始まった。「恋愛ゲームの必勝法ば、教えちゃろう(教えてあげよう)」この時点で、今日はまともな時間に帰れないことを覚悟せざるを得なくなった。

 この必勝法を聞くのは、これで3度目である。小心者の私は、まだ実践してないが、独身の恋愛願望の広報マン(男性に限る)のため、主に3つの点に要約して解説しよう。(1)恥を捨て「いい娘だ」と思ったらアタックすること~恥と思うのは失敗の主たる原因。ダメもとという感覚を自分のものにし、果敢にアタックしましょう。(2)感情をコントロールしましょう。相手にのめり込むのは禁物~好きになればなるほど、フラれた時のショックは大きいものです。常に自分の感情をコントロールし、相手の言動に注意を払い、冷静に対処しましょう。(3)危険な男を目指そう。できなければその雰囲気だけでも身につけよう~危険な男ほど恋愛に強いものです。なぜならそこには魅力があるのです。真面目や正直というものは、最初は好感を持たれますが、そのうち女性に飽きられます。

 あなた、実行できますか?ボクはあんまり器用なほうではないので…。「だから、お見合い結婚がいいって」テーブルの上はビールの空き瓶がゴロゴロ。すでに午前0時を回っています。「よかね。あんたは公務員なんだから、早く結婚して、子々孫々、世の中のお役に立つ子どもを残していくことが、どんだけ大事かわかろうもん」「ういーっ」「よし、今度はお見合いのコツば教えちゃろう」何時になったら帰れるんだろうか?

 この「お見合いのコツ」を聞くのは、今回が初めてである。お見合い願望の広報マン(男性に限る)のため、主に3つの点に要約してお伝えしよう。(1)身上書を見て8割はここで決意する~自分が希望する知的レベル、趣味など、今後の生活にかかわる部分をチェックしよう。(2)相手の性格を知るために、その娘の同級生などの女友達にそれとなく訊いてみる~この娘は、ワガママだとか性格がイイなど女友達が一番よく知っている。(3)自分の目で確認しよう。ちょっとしたことには目をつぶるのが最大のポイント~この段階に来ると「僕はこの女性と結婚するぞ」という自己暗示をかけながら、あとの2割をチェックしよう。気づいた相手の欠点は「お互いさま」と思い、気にしてはいけません。ただし、相性というものがあるので、あまりにも合わない場合は仕方ありません。

注意:最初から何も考えずにお見合いをすると、相手の欠点ばかりに目が行きます。お見合いをするときは、すでに8割は心を固めておくことが肝心です。~考えてみりゃあ、この注意を守らなかったばかりに、断ってしまったケースもあり、いまさらながら心が痛みます。

 「わーったかー(わかったか…と思う)?」「ういーっ、ヒック」「あのォ、あんたたちそろそろ帰らんね」と声をかけられたのは午前2時。「今から中州に行って、ナンパの指南をしてやる」としつこく誘う2児のパパをなだめ、帰路につきました。初盆の家の人、ごめんなさい。 

(平成3年9月号(下)に続く)

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