痛恨のカニ歩きを母親に目撃された、剛浦

塗った者しかわからない、タムシチンキの衝撃

 さて、梅雨時季の皮膚病といえば「インキン」。男なら一度は体験したことがあろうかという病気である。私は中学生のころの部活が剣道部だったこともあり、あの痒みは体験済みである。“タムシチンキ”という薬品をご存知であろうか、患部に塗布すると、居ても立ってもいられなくなるという、あの薬である。

 幾多の苦難を乗り越えて完治し、もう2度とかかることはないと思っていた高校2年生の夏のこと。隣のクラスの小松が「水泳パンツを忘れてきたので、貸して」と頼みに来た。この男、わりと2枚目でギターも弾けて爽やかなタイプ、女子にも人気。「貸してやるが、洗って返せよ」1週間後、私は局部に激しい痛痒感を感じた。「まさか」慌ててパンツの中を見ると、忘れもしない中学時代に見た光景がそこにあった。「小松の野郎ォ」ほかに思い当たる節はない。小松に苦情を言うと「誰にも言わんでくれェ、彼女に嫌われる」「知ったことか。薬代を払え!」「勘弁してくれェ」それ以来、小松とは仲が悪くなった。

 小松による被害者は、私だけにとどまらなかった。剛浦も小松に海パンを貸していたのである。廊下を歩いていると、剛浦がズボンのポケットに手を突っ込み、ポコチンをボリボリと掻きながら近づいてきた。そのとき私は、初期症状のうちにウチワとタムシチンキで完治していた。「おい、どーした」「いや、痒い、とても痒いんだ…。掻いても掻いても痒いんだ…どうなっているんだオレのポコチン」「まさか…インキンじゃないだろうな?」「失礼なことを言うな、こう見えてもきれい好きだ、俺がそんなに不潔に見えるのか?」と憤慨する剛浦。憤慨しながらもポコチンをボリボリと掻いている。

 「まさか…、小松に海パン貸さなかったか?」「おう、貸してやったぞ」「小松はインキン男だ…おまえ、伝染されたな!!」ボリボリ…掻く手を止めず「ま、まさか…」剛浦は、インキンという病気が初体験だったこともあり相当ショックを受けていた。そこで妙薬、タムシチンキを紹介してやった。早速、薬店で購入し、自分の部屋でズボンとパンツを脱ぎ棄てた剛浦は、ポコチンに薬を塗った。「ひいいいっ…」剛浦に「ウチワでポコチンを扇ぎながら塗る必要である」「ということを言い忘れていた。

 剛浦の話…「ポコチンから炎が上がったようで、目の前が真っ赤になったぞ」叫び声を上げながら、必死で扇ぐものを探したそうである。「風ェ…風ェ…」部屋の隅の扇風機に気づき、這いながらスイッチを入れ、その前に立ちポコチンをかざす。すると扇風機は、首を振りはじめたそうである。首の振りに合わせてカニのように横歩き往復をし、ポコチンに風を当ててその場をしのいだそうである。なんとか落ち着き、人の気配に後ろを振り返ると母親が立っていたそうで「あんた、何しとるの?」インキンの治療とも言えず、情けない息子の一部始終を見た母親は、2日間、口をきいてくれなかったそうである。

(平成4年7月号(四)に続く)

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