ジョギング最中に、突然、襲ってきた便意

美味しくビールを飲むために、走る

 最近、夜、走っている。対外的には体力づくり、本音はビールを美味しく飲むためだ。もともと運動嫌い、運動オンチの泰平。小学生のときはマラソンが嫌で「風邪気味です」とウソを言い、よくさぼっていた。(沿道で応援していた母親に見つかり、こっぴどく叱られた)ろくな子供ではなかったようだ。さて、そんな泰平がなぜ走っているかというと、同じ課の芝田先輩と代田さんが体力づくりのために走り始めたからである。役場の登山部で、今度、屋久島に登るらしい。「泰平、お前も走って山に登れ」「泰平さん、走りましょー。ビールがおいしいですよ」まあ、早い話が触発されたのである。

 運動不足とは恐ろしいもので、20歳の頃は53㎏だった体重もあと少しで80㎏。日ごろから「遺憾、どうにかしなきゃ」と思っていた矢先のことです。走りはじめは辛く1㎞も走れば息も絶え絶え。次の日は、思いっきり足が凝る。足の凝りは3日目で最高潮に達し「こりゃ、三日坊主か…」と覚悟してましたが、あら不思議、4日目から足の凝りがスッと引き毎晩3~6㎞ほど走っています。すでに2週間、少しずつ走ることへの喜びが芽生えています。もちろん、夜といっても風は暖かく、汗は滝のように流れる(1ℓは確実)。こりゃあ、ビールの旨いこと。もう、ビールのために走っとるようなもんです。

 陽が落ち、8時頃から走ります。田舎道なので、時々ホタルが飛んでいます。空気にも夏の色があり、いろんな香りがします。土の香り、樹液の香り、そしてコヤシの香り…。流れ星も時々…ロマンチックです。先日、いつものように走っていると家から2㎞付近で突然、便意が襲ってきました。うぐ。夜とはいえ、たまに車も通ります。“の、野グソはできん”以前のお便りにもあるように、野グソは虚しい。「我慢しよう、家まで2㎞だ…」便意は波のように、押しては引き、引いては押してきます。「ぐぐっ」時々立ち止まって波が引くのを耐えます。もう、ホタルが飛んでも流れ星が流れても、どうでもいいこと。

 熱く流れていた汗も、冷や汗に変わり、そして脂汗へと…。頭の中で「野グソ」という甘いささやきが何度もこだまします。夏の夜、30歳過ぎの男が茂みの中で野グソする姿が、車のヘッドライトに照らし出されたら、もう、それは変質者以外の何者でもありません。やっとの思いで家にたどり着きました。ウンコができる…できるんだぁ、神様ありがとう、もう宗教の世界のようにキラキラと光が差し込みます。這うようにしてトイレに行くと、祖母・富子がトイレに入っています。オーマイゴッド。「ばば…婆ァちゃん、早く出てくれ」「うちゃあ、今、入ったばっかりバイ」

 ちなみに祖母・富子は便秘気味。ケチな人に便秘が多いと言いますが、富子はケチです。「まだ?まーだ?」1分、2分…トイレの前で身をよじります。「急かしなんな、出んごとなる(急かすな、出ないようになる)」顔を上げると、便意に耐え抜く自分の顔が洗面台の鏡に映っています。鬼気迫る表情です。気を紛らすために「30日、30日、1本ぽん♪」など、ワケのわからん歌などを口ずさみます。どのくらい待ったのでしょう?祖母・富子がトイレから出てくるや否や、脱兎のごとくトイレに駆け込んだのでした。「今度から、走る前に用を足すことにしよう」固く誓いました。

 おかげさまで体重も少しずつ減りはじめ、マイナス1㎏。この調子でいけば、夏の終わりまでに5㎏くらい痩せられるかなぁ…。

(平成4年8月号(伍)に続く)

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