楽しいタクシーの運ちゃんとの会話(その1)

本当に飲んでないよね…

 終電を過ぎ、タクシーに乗り合わせて帰ることとなった。タクシーの中での会話「運転手さん臭くなかですか?」「臭かですなぁ、すごく…」「僕たち、ホルモン鍋ば食うてきたとですよ」「そのようですなぁ…」「……」「……」「すみません、臭くて…」「いや、別によかですよ。私も仕事やけん」「でも、タクシーに乗られてると、いろんな客がいるでしょ?」「ええ、たまに芸能人なんか乗せますなぁ」「ほーっ、芸能人?」「この前は、田中角栄の秘書だった早坂何とかを乗せましたよ」「すごいなぁ」「威張ってましたよ。でも、若い芸能人よりゃマシですバイ」話が弾んできた。広報担当になって話を聞き出すのが上手くなっている。

 「うーん、田原何とかや何とか桃子なんかも乗せましたが、ツンツンしとったですもん。お高くとまってくさ」「へーっ」「その点、若花田は礼儀正しか。ありゃ、よか男ですバイ」「ほーお」「ばってん失敗もしますタイ」「どんな?」「10年くらい前、博多駅でお客さんば乗せたら大宰府って言わっしゃあと」「ふむふむ」「博多は初めてで、お金のあるごと見えんけん「電車ば利用したほうが安かですよ」って言うたとです」「ほう」「そしたらムッとして「いいから太宰府まで行って」って。親切心で言うたとですバイ」「うんうん」「ところが目的地に近づいたら、あちこちにポスターの張ってあって、そのお客さんと同じ顔が印刷されとーちゃもん」「ほおお」「青葉城恋歌の佐藤ムネユキさんやったと」「ほーお」

 「おっと、お客さん釈迦郡やったねぇ」「今度、まんだら町が岡福市と合併するそうですなぁ」「いや、単独で「まんだら市」になるんですよ」「いや、岡福市に吸収合併されるとですよ。新聞にそう書いてあったごたあ」「違いますよ、単独で市になるんですよ」「単独で市になっても、何もいいことはないですよ」「そうですか?」「私は以前、〇〇市に住んどったばってん、市になっても公共料金が下がるわけでもなし……合併ですよ、岡福市との吸収合併」「……」

 私は、タクシーの運転手と話すのが好きである。5年ほど前、やはり夜遅く天神町でタクシーに乗った。「ヘイ!お客さんいい気分だねぇ」「はあ、少し飲んでますから…」「いいねぇ、サラリーマンは…俺なんか角打ちだよ」「へ?」「いえね、今ちょっと引っ掛けてきたんだけど、これ内緒。まんだら町まで2,000円で行ってあげるから…内緒」と言って料金バーを元に戻した。こちらも酔っているとはいえ、不安である。「のの…飲んでるんですか?」「ふふっ」真夜中とはいえ、50km/hの国道をものすごいスピードで走っているようだ。キンコンキンコンとスピードメーターが鳴る。「いや、ゆっくりでいいですから…」「俺、大丈夫、今日、最後ね、仕事、あがり」日本語もめちゃくちゃである。

 どうも、社に帰る前に一杯ひっかけたタクシーに乗ってしまったようだ。「お客さん、前を走っているタクシー追い越しましょうか?」「や、やめて…」ぶおおおっ、キキーッ。飛ばし始めたと思ったら突然のブレーキ。「ど、どうしました?」「おっおおっ、タクシーかと思ったらパトカーやった…やばいやばい」やっと普通の速度に戻ったが“酔ってる”というのが本当か冗談かわからず、気が気ではない。「あのぉ、降ります」「降りてもいいけどこのボタン押すよ」「何ですか、それ?」「強盗用の緊急ボタン。赤ランプがついてパトカーが来るよ」信号停車中に「ほら、横の銀行の窓ガラス見てよ」赤ランプが点滅している。

 「パトカーが来ると、運転手さんヤバいんじゃないですか?」「おっと、そうだった。ご忠告ありがとう」自宅前につくと。「1,500円でいいや、楽しかった」と言って帰っていきました。飲んでいたのだろうか?からかわれただけだったのだろうか?

(平成4年10月号(四)に続く)

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