ゴミ箱をティッシュペーパーで一杯にする、青春

 先日、友人の基原氏と田藤氏が役所にやって来て、久しぶりに飲みに行くことになった(何だかいつも飲んでいる)。田藤はとても明るい性格だが”いい人”過ぎて、まだ独身である。「ぐふっ(田藤の口癖)泰平ちゃん、まだ結婚せんと?ぐふっ」「うん、まだ」「どーして?見合い話とかあるだろ?ぐふっ」「ないことはないが婿養子の話ばかりで…テレビに出てからは、特に…」「テレビに出た?恥ずかしいヤツだ!」「てっちん(田藤のニックネーム)こそ、どーして結婚しないんだ?」「うっ!」「うっ!じゃない、どーして?」「先日、お見合いしてねぇ。ぐふっ」「いい話じゃないか…で、どうなった?」「うっ!」

 明るい彼も私の質問に、いちいち「うっ!」と詰まる。最近、女性に対する興味が薄れてきて(ホモという意味じゃないよ)酒を飲んだり、バカ騒ぎをする方が楽しいと言う。「それにさ、最近、ナニがナニでねぇ…ぐふっ」「えっ?ナニがナニ?糖尿病なのか?」「いや、そーゆー訳ではないが、ナニがナニの傾向にあるんだ…ぐふっ」「泰平ちゃんは顔色もいいし、ナニはナニじゃないだろう?ぐふっ」「うっ!」(今度は、こちらが言葉に詰まった)「いえねぇ、30歳を過ぎると確かにナニはナニの傾向があるみたいだ。基原君、君はどうだ?」「えへっえへっ」基原氏は、すっかり酔いが回り、無表情で笑っていた。

 「若いとき、特に高校生のときナニは凄かったねぇ…」高校時代の話になった。同級生に孝前君という友達がいた。1年生のときは空手部だったが板割りで拳を骨折し、先輩から説得され退部させられてしまった。ブルース・リーが好きで、休み時間は教室の隅で「ドラゴン、怒りの鉄拳」の真似をしていた。当時の彼は友人から「お前はサルか?」と言われるほどナニが元気であった。彼の部屋に遊びに行くと“プン”と変なにおいがし、ゴミ箱には丸められたティッシュペーパーがぎっしりと詰め込まれ、ベッドの下にはたくさんのエロ本があり、まさに青春していたのである(何のこっちゃ)。

 もちろん、ティッシュペーパーでゴミ箱を一杯にするなどという無謀な行為は、当時の彼くらいにしかできないこと。しかも、ナニがナニ過ぎて青白い顔をしていた。一昨年の冬、その孝前から年賀状が来た。「彼女ができて、東京ディズニーランドでデートした。泰平ちゃん、うらやましいだろう」という内容であった。「ええっ、孝前に彼女?ぐふっ」てっちんのショックは大きかったようで、さっきまで“彼女なんて面倒”“自由がなくなる”などと言っていた彼は無口になり「基原君、孝前に彼女ができたそうだぞ。ぐふっ」と基原君に話を振った。基原君は、相変わらず無表情のまま笑っていた。

 「ぐふっ、泰平ちゃん。俺たちのうち誰が一番に結婚するだろうかねぇ?」「うーん、公務員というのは結婚相手として根強い人気があるから、可能性としては僕が一番高いと思うよ」「ぐふっ、普通そうだけど泰平ちゃんの場合はねぇ…ははは」田藤によると、私、泰平には妙なイメージがあるから、きっと結婚は遅れるだろうという。「何が妙なイメージだ?」「う~ん本人を前に言い辛いのだが、ぐふっ、泰平ちゃんには”妖怪”のようなイメージがある」「妖怪?」「例えば、田舎屋敷のトイレなんかに出てくる”ヌラリびょうたん“とか、そんなイメージがあるんだ。ぐふっ」

 さて先日“ヌラリびょうたん泰平”にも、久しぶりに婿養子以外のお見合いの話が来た。1年ほど前、お見合い相手がデートの最初から最後まで口をきかないという痛い目にあっている。「お見合いはたくさんだ、恋愛しかない」と心に決めたものの、時間が過ぎると臆病風に吹かれ、色気のある話もないままの生活。「お見合い?あまり気が乗らないなァ」「そんなこと言ったって、このままじゃどうしようもないでしょ」母・康子の攻撃は鋭い。祖母・富子は饅頭を握りしめたまま眠っている。「お前がサッサと結婚せんから、父ちゃんはいつまでも働かなきゃ遺憾。俺はもう自由になりたい」泣き落としにかかる、父・匠。

 とうとう気が乗らないまま、お見合いをする羽目になった。気が乗らないお見合いというのは、相手に対してたいへん失礼である。とにかく、失礼にならないように話を合わせ、おいしいものを食べた。美人ではないがとても性格のよさそうなお嬢さんで、特に、友人から“妖怪ヌラリびょうたん”と言われたという話に笑いも絶えず、良い雰囲気であった。「ついに、泰平の結婚が…」うら広報にそんな見出しが躍るのでは…。しかし、家に帰ると早々に「お断り」の連絡が入っていたのである。めでたし、めでたし。けっ!!

 来年こそは、きっと良い年でありますように。すでに来年のことを考える泰平であった。

妖怪、ヌラリびょうたんこと:泰平 楽 (1992年11月30日PM11:00)

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