老人クラブの会長の椅子には、香川さんに座ってもらう

作戦、褒め殺し

 さて行政区老人クラブの話が出たので、そのことを書こう。そう、祖母・富子が8年間も会長をしていた波津老人クラブである。現在、会長は矢原タエさん(元町議会議員)。最近リサイクル表彰なるものを国から受け、多忙なこともあり1期で会長を辞めることになった。問題は誰が次に会長をするかである。前会長の富子も、いまさら会長はやりたくないらしく頭を抱えていた。しかも会長になりたがっていた山末の婆ァさん一派は、既に富子の手によって解体され、葬り去られていた。もちろん男性には平山清氏(きよっしゃん)がいるが、人望がない。富子による根回しが始まった。

 富子は“この人”と思うオミネさんの家に行き「次は、ああたが会長ですばな(次は、あなたが会長よ)」と口説いてきた。オミネさんは悩みに悩みぬいた挙句、心を固めた。だが先日、矢原さんが富子に相談に来て「次の会長なんですけど…(この人は標準語で話す)」なんと、オミネさん以外の人を考えていたのである。さて、困り果てた富子。矢原会長が指名したオタネさんの家に出かけ「次は、ああたが会長ですばな」と口説いてきた。さあ大変、心を固めた会長予定者が2人もできたのである。会長決定の日は刻々と近づく。富子は「心臓が痛い」だの「めまいがする」などと家族に当たり散らしていた。

 そこで調停役として登場したのが、父・匠。父も67歳、名前だけとはいえ会員である。老人クラブには「俺はまだ青年」と豪語する名前だけの会員が数多く、その最長老に香川武氏がいる。以前登場したモテモテ先輩(平成3年9月号(中)~恋愛はゲームだ。ゲームには勝たなきゃ:参照)の父で、現役時代は高校教師と、組織の中ではハイソな存在である。その香川氏、以前、波津行政区の区長になりたかったにもかかわらず、吉富勝男氏(元役場職員)に敗れ、隣近所の若い連中(と言っても50歳以上)を集め、反区長集団をつくり、アウトローな活動をしていたのである。

 そのとき新区長の選任委員だったのが、父・匠であった。そのため、反区長集団は至る所で「富子婆々ァはケチ」「匠は区長の腰巾着」「息子の楽は種ナシ」など、泰平家に対するひどいウワサを言いふらしていた。ちなみに、私・楽が種ナシかどうかは、まだ結婚しておらず種ツケ作業まで至ってなく、自分でもわからない。早く解明したいものである。トホホ。さて、どんなにひどいことを言われても父・匠は大人である(と言うより“変なことになって自分が会長なんぞにさせられちゃたまらん”と思っている)。隣組の波藤氏や羽柴氏などと話し合い、香川氏の会長擁立に動き出したのである。

 さて、会長選定の日。祖母・富子は会食後「腹具合が悪い」と帰ってしまった(仮病?しかし、ちゃんと食事をするところはあっぱれである)。むろん、会長選定は難航した。そこで、調停役の父・匠が出てきた。あらかじめ根回しをしておいたので香川氏も出席している。「ウチの婆ァさんが八方美人で、ワケのわからん人で、もう…」と、香川氏が納得するまで富子の悪口を言った後「やっぱり、今期の会長は役員の若返りも念頭に、男から出しましょう。本来なら、私や波藤さんでもいいのですが、大先輩の香川さんがいらっしゃる。何せ、香川先輩は学識も高く、文化人で…」まさに、褒め殺しである。

 褒められると悪い気はしないもの。ちなみに父・匠は話下手で、家族でさえ「何が言いたいの?」と思うこともしばしば。しかし、それが妙に説得力があったりもする。「香川さんのようなハイソサエティー(香川氏は意味を理解し、心地よく聞いている)な先輩に、老人クラブ会長なんて役不足かもしれん。けど、毘沙門町の老人クラブのレベルアップは、先輩のような人にしか…」しかし、香川氏なかなか「うん」と言わない(もったいぶっているのは表情を見れば、一目瞭然)。「考えさせてくれ」との回答。付け加えておくが、区長選出のときも「考えさせてくれ」と言い、吉富氏に敗れている。

 まだ、進行中でどうなるのか決定はしていないが、香川氏は親衛隊である反区長集団の隣近所の若い連中(しつこいが50歳以上)を集め「匠さんが土下座をしてまで頼むから、断り切れない、引き受けざるを得ない」と弁明していたとのこと。この情報は、父・匠の片腕である大木芳樹氏からの情報である。その話を聞き「あたしゃ、香川さんは好かん」と言いながら、ご飯をおかわりしていたのは腹具合の悪いはずの祖母・富子であった。かくいう私も、来年度は波津消防団の班長である。次男なので「1年だけでいいから」と騙されて入団したものの、気がつけば班長である。トホホ。

 さて先日、子内町の泉宝さんから「火事になった上に怪我までした」とのお便りをいただいた。そこで一言「消火器を購入しよう」消防団を通じて買うと安い上にメンテナンスも充実。しかし、購入しても「消火器どこ?」じゃ困る。一番良いのは、玄関に置くこと。台所に置く人もいるが、最も火元になりやすく台所が火元の場合は熱くて消火器を取りに行けない。また、近所で火災が起きた場合も玄関ならすぐに消化器を持ち出せる。そう、初期消火が一番。その前に火事を出さない心がけ。何せ、私が班長の間は波津行政区から火事を出すことは決してあってはならないのである。

(平成5年2月号(参)に続く)

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