選挙前の大安売りの笑顔で「市長室に来なさい」

 夏らしい夏が来ないまんま、秋になろうとしています。楽しみにしていた毘沙門町の海水欲情浴場に出没する“はいれぐ娘”を拝むこともできず……ううっ、秋になろうとしています。ううっ、秋。人恋しさが募る季節でんがな。このうつろいゆく季節をなごり惜しんでいるのは私だけぢゃあない。先日いただいた田宮町の藤尾さんのお便りによると、この夏は、ノースリーブ娘もTシャツから透けて見えるブラジャーの線も、一度も目にすることがなかったと痛くお嘆きのご様子。(あんたは変質者か?おっと、ご同輩、ご同輩)いやはや何とも、夏らしくない夏でございました。

 この夏らしくない夏「“はいれぐ娘”はまだか?」とモンモンと広報9月号を編集しておりました。この号はいつになく力を入れており、特集記事を組み、医療や福祉の関係者を含め21人もの取材を敢行。しかし、雨、雨、雨、もひとつおまけに雨と、計画どおりに取材が進みません。また、印刷所が5日間の盆休みを取っているため、締め切りもシビア。何人もはしごで取材し、帰ってから原稿の書き起こし、深夜残業と休日出勤のオンパレード。出来上がらぬ原稿にイライラ、拝めぬ“はいれぐ娘”モンモンとしながらも、何とか、入稿が終わりました。さすがに疲れた…ベリータイヤード。

 今月はネタもなく、福井の広報大会にも行くし「裏広報はお休み」と思ったのですが…「泰平ちゃん、裏広報まーだ?」と後輩の光野(私より5歳年下だが、最近、私を”泰平ちゃ~ん”と呼ぶようになった。けしからん、お痛してやろう)。また、前の職場で一緒だった代田さん(いえい、独身だじぇ)や麗薗さん(いえい、独身だじぇ)からも「裏広報まだですか?」と矢(針くらい)の催促。(ちなみに職場内の独身女性に裏広報を配り、ファン拡大を目論む泰平であった)こうなれば疲れた体にムチ打って…(福井の大会で打たれていたりして)書かにゃあ男がすたるってもん。んで、コツコツと書いとります。

 さて、お盆明けの8月16日のこと、広報9月号の締め切りまであと2日しかないというのに、未稿が8ページあり、かつ人物取材が8人も残っているという朝のことでした。「どうしよう、どうしよう、東南アジアに高飛びして逃げようか」と頭を痛めながら出勤していました(こーゆーことで頭を痛めるというのは毛根に悪い。最近また、抜け毛が激しくなってきた。今はサクセスを使っているが、鹿山市の口瀬ちゃんの忠告どおりメイグイファーに変えてみようかな)。さて「フィリピン」だの「シンガポール」だの東南アジアの国名をブツブツ言いながら出勤していると、玄関に市長が立っていました。

 遅刻ギリギリ始業前7分の出勤(深夜残業であまり寝てないんだモン)にもかかわらず、市長はニコニコしながら私を待っていました。まるで選挙前の有権者に振り撒く、あの大安売りの笑顔です。「うっ…お・おあようございます」「うむ泰平クンおはよう」ちなみに“クン“などをつけて呼ばれることなど滅多矢鱈にあることではない。いつもは「おーい広報」または呼び捨てである。嫌な予感が走りました。「泰平クン。お前、結婚したくはないか?」「うっ」すぐにピーンときました。お盆のお参りに行って、養子の話でも拾ってきたに違いない。「泰平クン、君は次男だったよな?」……そら来た。

 「歳はいくつになるのかな?」「さ、さ、33歳になります」「ふーん、結婚したいだろ?」そう、結婚したいのはヤマヤマではある。しかし養子というのはどうも引っかかる。何より、市長(政治家)の紹介で相手を見つけるなどというのは勘弁してほしい。心底イヤである。というのも、まんだら市のように政争の激しいまちでは、政治家やその派閥のものから紹介を受けたり、仲人をしてもらおうものなら、〇〇派や××派などと色分けされてしまう。出世のためにそれを願う職員もいるようだが、私はイヤ。これ以上、市長の話に乗っかるのは、くわばら、くわばら、くわばらかずおは、吉本新喜劇。

 とりあえず「別に、どうでもいいですよ」と応えてしまいました。「な、何?どうでもいいとは何だ、お前、もう33歳だろうが…」市長の言葉が追いかけてきます。「ははっ、はははは」笑ってごまかす泰平。さらに市長の言葉が続きます。「詳しく話してやるから、後で市長室に来なさい」重荷を課せられてしまいました。その日は、本当に忙しかったこともあるのですが“取材”を理由に一日中逃げ回っていたことは言うまでもありません。結局、その後も市長室に行くのを避け続け、私の動向に気づいた市長からは口をきいてもらえなくなりました。しかし、まあねぇ…結婚か…。

(平成5年9月号(下)に続く)

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