友達の兵地君「婚約指輪で散財したよ」と嬉しそう

 秋です。巷では「秋味」という麦酒が出回り、秋以外の何ものでもない。ううっ、そう10月になるのぢゃ。夜を重ねるごとに肌寒さが増してきました。ううっ、人恋しい季節の始まりぢゃ…ううっ、人恋しいよぉ。思い起こせば9か月前、あれは1月1日元旦のこと「今年こそは、お嫁さんが来ますよーに」と柏手を打った三社参り。引いたおみくじは、5年ぶりの花山“大吉”。縁談の欄には、胸が熱くなる言葉が…「うんうん、今年こそはきっといいことがあるに違いなや…」と、平成5年に懸ける想ひは熱かった。しか~し、1年の3/4が終わるというのに何もなし。ああ、何もなし、何もなし。

 うう、人恋しいよー。などとブツブツ言いながら仕事をしていると、兵地がやって来た。いま、コイツと話をするのは非常にイヤである。彼は同い歳の同僚で、独身…高校時代はテニス部でそこそこモテていたが、紆余曲折があって「フラれ癖」がついてしまい、独身の憂き目にあっていたのである。しかし、その彼も結婚が決まりルンルン気分なのである「別に可愛くもないし、たいした女ぢゃないよ」などと言う彼ではあったが、うっかりその話に乗っかると…もう、ボロボロ。「これでもか」というほどノロ気話をするのである。たいそう気分の悪いことである。

 「泰平ちゃ~ん元気~」笑いながらヤツは近づいてきた。「元気じゃねーぞ」不機嫌そうに応える泰平。「元気ぢゃないんだ…可哀相」話に乗るとイヤというほどノロ気話を聞かされる。くわばら、くわばら、さわらぬ神に祟りなし…である。「何か用か?俺は原稿づくりで忙しーんだ」かかわりたくない。しかし、ヤツは私の心を見透かすかのように「忙しいんなら仕方ない…これ、骨休めのときにでも見て。俺、もういらないから」と机の上にパンフレットを置いて行った。開けてみると、指輪のパンフレットだった。高額の婚約指輪を買ったそうで「はっはっ、散財したよ」と言ってたそうである。ち、ち、畜生め…。

床下は相当に湿気があって一部、腐りかけていますねぇ

 ”畜生”と言えば、昨日家に帰ると、母・康子が待ってましたとばかりに話しかけてきた「引っかかったバイ」というのである。NHKニュースで白蟻駆除会社「清露住建」が詐欺の疑いで家宅捜査を受けたというのである。ほんの1週間ほど前、この業者に風呂の床下を扱ってもらっていた。話は2か月前に遡る。今年の夏は雨続きでジメジメした日が続いていました。そこへ清露住建の社員がひょっこりやって来て「奥さん、床下を調べさせてください…」と依頼。「結構ですから…」と断る母の横から、祖母・富子が口をはさんできた。「まあ、調べるくらいなら…無料だそうだし」(タダより高いものなし)

 しばらくして、汗だくの社員がポラロイド写真を片手に床下から出てきた。「浴室の床下は相当湿気がありますねぇ…一部柱が腐りかけてますよ」確かに写真には湿気に濡れた柱が写っていた。「このまま放っておくと白蟻がつきますよ」「ほー”どうとうし”が…」富子が応えた(博多弁でシロアリのことである。ちなみに、カブトガニのことは“うんきゅう”といい、仲の良い夫婦のことを“うんきゅうのつがい”という…ううっ、人恋しい)さらに「この家を建てるとき、風呂の床下に大工が土と間違えて堆肥を入れたもんだから、湿気に悩んどるとですよ」と、いらんことまで付け加えた。

 ちなみに20年前。祖母と大工さんが大喧嘩をし、その腹いせに堆肥を入れたというのは本当らしい。まあ、それが原因かどうかはさておき風呂の床下はいつもジメジメしていた。「いいです、ちゃんとした大工さんに頼みますから」と断る母。しかし、もうすでに時は遅く「主人と相談して…」となってしまった。今まで、この手のセールスに乗ったことが2回あった。最初は「瓦止めのお日様」そして「外壁のサイゼンヤ」である。費用はそれなりに掛かったが詐欺ではなかった。どちらかと言えば、工事後に台風が次々とやってきたにもかかわらず大した被害もなく、結果オーライだったのである。

 早速、母は父・匠に、対応を相談した「いらん、いらん、どこともわからん会社じゃないか…大工の藤棚さんに頼んだほうがいい」ことは、それで終わったかのように見えた。しかし清露住建の社員は日参し、横から口を挟む富子のありがた迷惑な助言も手伝って、いよいよ断り切れなくなってしまい、とうとう契約をしてしまったのである。契約が終わると、富子はまるで手のひらを返したように「清露住建って、ちゃんとした会社なの?」とか「やっぱり、藤棚建設にお願いしたほうが安心なんじゃないか?」などと言いだし始めた。いやはや、嫁と姑との仲というのは不可解なものである。

工事の当日、1時間程度の作業に「おかしい」と感じた母だったが18万円を支払った。1週間後にあのニュースが流れるまでは「高かったけど、湿気は取れるしシロアリの心配もないの」と自分を納得させる母。しかし食卓でニュースは流れた。「あーっ」と叫ぶ母。祖母はお茶碗を持ったまま眠っていたので、事件を知らない。父・匠はここぞとばかり「考えが浅い」と母を責める。「お婆ちゃんが悪いんです」と弁解する母であったが、モヤモヤとした気持ちの持って行き場もなく、ボーッと帰ってきた(結婚しないハゲかかった)息子に愚痴ったのである(愚痴はいいから早くご飯を食べたい泰平であった)。

 翌日、関係資料を集め、父・匠は清露住建に電話を入れた。父は退職するまでは大手メーカーの営業職で何度も修羅場を潜り抜けてきており、小六法を電話の横に据え嬉々としながらダイヤルしていた。「正当な料金です。テレビの報道には困っています」という回答に「わかりました、契約と工事の内容を精査し、齟齬があれば法的手段で対応させていただきます」と反撃。その結果、9万円を返してもらうことで落ち着いた。その半額の4万5千円が父の小遣いとなった。この件について、祖母は眠っていたので知らない。知っていれば近所に言って回る(ちなみに裏広報に書いている孫がいる。血は争えない)。

(平成5年10月号:ボツ版(中)に続く)

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