泰平ちゃん、君には消防団三役が待っている

 そのほか、9月には幼馴染の結婚式もありました。5年越しの交際でしたが両親からの激しい反対で職場まで辞めることになり、それでも交際を続けて結婚に至ったのです。身内は彼の父と弟しか出席しておらず、その父も酒をさすとこの結婚を快く思っておらず、ただただ悔やみ話ばかり…、世間体があるから、仕方なく式だけは挙げたと言うのである。もちろん結婚というものは、みんなに祝福されて行うのが幸せである。しかし友人は祝福よりも彼女を選んだ。すごいなァ…自分にそれができるだろうか…彼女もいないのにそんなことを考えていると、小学校の同級生が声をかけてきた。

 「うわっ、泰平ちゃん久しぶり。おいさん(オジサン)になってしもうたねぇ」「うっ、よせよ、俺はまだ独身バイ」「ウソやろ。頭のハゲ具合だけはもう課長さんのごとしとるとに…」こいつにはデリカシーというものが微塵もない。「お、お、お前も、えらくフケたじゃないか」と反撃を加えた。「いや、別にいいもん。もう、嫁も子供もおるけん、立派なおいさんやもん」「ううう…」「泰平ちゃん、今、班長しよろ?消防団の」「う、うん」「3年後、俺たちが最年長になったら、三役ばしてもらうけんね」「ええーっ、三役?」「誰も分団長ばせれ…やら言いよらん。部長、部長ばしんしゃい」

 「いやばい(いやだよ)、オレは次男だし家を継ぐワケでもない…2年後に毘沙門町にいるかどうかもわからんぞ」「養子に行くと?」「いや、養子どころか結婚の”ケ”の字も決まっていないんで、養子に行く可能性がないわけじゃあない」彼は新郎を指さし「誰っちゃよかけん、反対されたっちゃ、勘当されたっちゃよかけん、結婚したら毘沙門町い住んで、とにかく消防団の三役ばしない(三役をしなさい)」彼にとっては、私の人生より2年後の消防団の人事の方が重要なのだ。「よかよか、心配しなんなあんたの結婚式は、俺も出席しちゃあたい」(出席などしてほしくない)

 しかし、この裏広報を始めた4年前は“結婚”ということばに、まったくと言っていいほどイメージもなく、笑い話のように「結婚できね~っ」「彼女がほしいよ~」などと書いておりました。しかし、33歳と6か月にもなって結婚話の一つもないと(二つも三つもあったら、それはそれで問題なのだが…)もう、笑い話ではすまなくなる。本人が望むと望まざるとにかかわらず、周囲が許してくれない。冗談で笑い飛ばしたつもりで言っても、笑ってくれない。周囲はそれを本気で受け止めたり、不憫に思われたりして、逆になぐさめられたり…それは、さすがに嫌である。

 先日、敬老の日を前に市長の高齢者訪問があった。先月号(養子縁談話のお誘い)の件があったため市長車に同乗せず、係長と一緒に広報車でついて行った。しかし係長に急用ができ、市長車に同乗することとなった。また、例の話を蒸し返されたくないので、息を殺し目立たぬようにしていた。しかし私の顔を見るなり、市長は例の話を持ち出してきた。「泰平、結婚せんか?もう33歳だろ」「はぁ…」額からは冷や汗がタラタラ。「早く取材を終えて帰りたいよ~」頭の中で繰り返す。「どんな女性が好みだ?んっ?」市長は車窓から見える女の子を指さしながら「あれか?んっ?それとも、あれか?」と言う。

 ううっ…正月のおみくじではないが、このような状況が続くのは遺憾。本気で考えなきゃいけない時期が来ている。しかし、誰もいいというワケにはいかない。遺憾、遺憾。髪も薄くなったし……今回は明るいネタのつもりだったのに暗くなってしもうた~。ううっ、元気出して、早く結婚相手を見つけよーっと。

ボツ版にした理由は、発行版を読めばわかるよ  泰平 楽(1993年9月30日)

(平成5年10月号(発行版:上)に続く)

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