プロになった人は来ない、漫研OB会

プロになった人は来ないOB会

 さて、今年最初のお便りだというのに、病気のネタで始まりスイマセン。お正月の特番でも「今年がエイズ元年になるかもしれん」と言っており、革安手町の石立氏など独身貴族の広報マン(彼女おるか?石立君…ふっふっ!いたら分けて…【後日談】石立君には、すでに嫁も子供もおったのぢゃ!!ガーン!!)に注意を呼び掛けるという目的で、ちと書いてみました。(なに?人のことより自分のヘソの下のことを心配しろって?うるせえやい)

 年末の29日、岡福大学マン研(学生時代、私に好意を寄せていた女の子からマンザイ研究会と誤解されていた。まあっ、予想どおり話の食い違いから話題がかみ合わずフラれてしまったけど…)のOB会がありました。ちなみに、私は幽霊部員みたいな立ち位置で、学園祭や展示会などには作品を出すが、合宿などのクラブ活動にはあまり参加せず、フラリと顔を出して後輩たちにいつも「うんこ」の話をしていく変わった先輩でした。そのためか共通の話題が少なく、この日は聞く側に徹していました。

 よくよく考えると、今も昔も“マン研”というクラブにはオタクの雰囲気が強く、40歳近くになっても「機動戦士ガンダム」のステッカーを集め「レアだろ?」と言って自慢するヤツがいたり、ジャケットの下にモデルガン(ルパンⅢ世が持ってるやつ)を忍ばせ、チャッとカッコよく抜いて見せ、テーブルのコップをひっくり返す奴など、ほとんどのアホはまだ結婚していません。しかも、そんな奴らから泰平は「うんこが好きな超オタク」と思われており、ちょっと哀しい。(ちなみに学生時代はギャグマンガと称し、くだらん“うんこマンガ”ばかりを描いていたような…気がする)

 さて、オタク族の集まりマン研のOB会です。欠席者に対しては、情け容赦なく悪口を言われます。特にE君のことは無茶苦茶。彼は3浪し、私より年上の同級生です。まあ、金払いが悪い(麻雀の負けを出し渋る、払わずに逃げる)くせに、勝ったときは情け容赦なくむしり取るというのが、不評の最大の原因なんですが…。その彼、いつもアポロキャップをかぶっていました。外見や行動と違い、結構ストレスをため込む性質だったようで、強度の円形脱毛症、一時期は眉毛さえない状況でした。一度、春一番にあおられてコロコロと転がるアポロキャップを必死の形相で追いかける姿を、見たことがあります。

 もちろん、彼に前では「ハゲ」や「アデランス」「坊主」という単語は禁句。それをテーマにした漫画を描くこともタブーでした。E君は「また故郷に舞い戻ってきちまった。心を吹き抜ける風が切ないぜ…」という抒情的な作品を描く人で、技術が伴わず「これ、ギャグ?」と勘違いされることもしばし。そのような状況なので、誰もが面と向かって「ハゲ」と言ってみたい衝動に駆られていたのでした。当然、デリカシーのないヤツもおり、酒の席で「マン研の太陽君」や「よっ、ツルリン君」などと声をかけ、ボコボコにされた部員もいて、だれ一人、本人の前で頭のことを話題にする人はいませんでした。

 で、OB会では、就職活動のため学生課に成績証明書を取りに行ったE君を見かけたという話題になっていました。「すみません、成績証明書をください」と言った彼を学生課職員が強く叱責「帽子を脱ぎなさい。もうすぐ社会人にもなるというのに、そんな常識もわからんのか?」「……」「脱ぎなさい」「……」「脱がないと証明は出さんぞ」しかたなく帽子を取るE君。円形脱毛症は少し回復したものの、まだらに生えた毛髪は痛々しい。「うっ」周囲のざわめき、たじろぐ職員。気を取り直し「はい証明書…。悪かった…」と言ってそそくさとトイレに消えたとのこと。それをOB会の連中は、大笑いで話している。ひどい連中だとお思いでしょうが、誰も同情していない。金払いが悪く、がめついと誰も気の毒とは思ってくれないようである。

 もちろん出席したOBは、サラリーマンか自営業をやっており、プロのマンガ家になった人は来ていません。「俺はマンガ家になる」といって大学8年生で上京したG先輩。今は婿養子に入り都内の文房具店を経営、本日出席。「俺はマンガ家になる」といって大学2年生で中退し漫画家NのアシスタントになったD君。漫画家Nと大喧嘩してアシスタントを辞め、デビューの機会を狙ってたが「盗聴されている」と騒ぎ出し、帰郷して病院でケア。その後、回復して上京。今は連載を1本持っているとのこと、本日欠席。前記のG先輩と彼女の取り合いをして勝ったI先輩は、S社で漫画賞を取り、連載を見越して仕事を辞めて結婚。連載は来ず。奥さんの世話になっていたが、ついに連載の依頼。しかし、人気が出ず連載打ち切り。もちろん、欠席。

 ひどい話でも、時が経つと懐かしいものです。後輩のTが「何で泰平さん、プロの漫画家を目指さなかったんですか?マン研の中ではピカイチだったのに…」(ふふっ、このピカイチという言葉、なんか、心地いい響きですね)「うん、やっぱり才能がなかったんだよ」「もったいないなあ、もったいないなあ、うんこネタのマンガ、見たかったのに」と繰り返すT、この5月に結婚するそうです。(チクショー)

(平成4年2月号(参)に続く)

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